【佐藤智の教育コラム】全町避難を余儀なくされた町で「0から1を生み出せる子どもを育てる」大熊町立学び舎ゆめの森の挑戦
こんにちは!
教育ライターの佐藤智です。
2ヶ月ほど前になりますが、福島県浜通りにある、大熊町立学び舎ゆめの森にお邪魔しました。
東日本大震災に起因した東京電力福島第一原子力発電所の事故によって町全域が避難指示区域、および警戒区域となり、全町民11,505人が町外への避難生活を余儀なくされたエリアに、2023年に新校舎にて学びがスタートした学校です。
こども園と義務教育学校で構成されており、0歳〜15歳の子どもたちが豊かに触れ合い、学び合っています。
現在、教育移住の子どもたちは6〜7割。
全国から選ばれる公立学校になっています。
自分で選択することを大切にし、そして、さまざまなバックグラウンドのある子どもたちが多いこともあり、自由進度による学びを行なっています。
メインエントランスを入ると、図書館がぐるりと広がり、本を中心とした学びの場が築かれている。大熊町が昔から「本の町」として、「本」に力を入れていたこと。それを象徴したつくりにしたそうです。(どこらからでもアクセスしやすい図書館のつくりは、国としても重視している点ですね。)

それだけでなく、至るところに分野ごとに本棚が並べられています。
私が安直に「これだけあれば、子どもたちは本を読むようになりますか?」と尋ねると、先生が少し考えて、「子どもたちは話し合いながら本をパッと開いていますね。遊びながらも。読む、というか、いつでもそこにあるものという感じでしょうか」と言っていて。
ああ、これが大切なんだよなぁと痛感させられました。
「さぁ、本を読みましょう!」と気合いを入れるような本との接し方よりも、常に身近にあり、自分を助けたり耕したりするもの、そんな感覚を持てるような学びの環境を作りたい。そんなことを思いました。
ゆめの森では、探究学習を重視しています。
その背景にあるのは、「全町民の避難を経験したこの土地で、0から1を創り出せる子どもを育てたい」という思いです。
地域のビジョンが学校のビジョン。
この重なりをつくっていくことが、公教育においては重要であり、そのために地域とともに徹底して対話をし、そして今も対話し続けていることに、深い学びがありました。

大熊町は未だ海側は帰還困難なエリア。そうした地域に住んでいた住民が、ゆめの森の前に建つ仮設住宅で暮らしているそうです。
食堂にステージが設けられていて、グランドピアノやドラムなどが置いてあるのですが、そこの窓をフルオープンにすると町民たちも外側からステージを楽しむことができるつくりになっている。

地域とともに楽しみ、学び、生きていく。それを学び舎のつくり、まるごとで表現していました。
ちなみに、「町民の多くが避難した会津若松市への感謝を忘れないという思いで、さざえ堂をイメージした螺旋階段があるんです」とご紹介いただいたときは、ちょっと泣きそうになりました。(半分、会津人です。)
施設の充実ばかりに目がいきがちですが、どんなビジョンを目指し、どんな学びを行うか。
その軸があっての、設備であり、大人の関わりであり、さまざまな教育手法である。
そして、その上位概念を築いていくために、答えがない中で対話をし続けていく姿勢が最も印象に残りました。
佐藤 智